ジャンル アドベンチャーゲーム
発売 (株)アスキー開発 (株)グラスホッパー・マニファクチュア
とにかく隙あれば中古のゲームショップで私はこのゲームを探していた。しかし探せども探せども見つからない。ニコニコ動画にプレイ動画が上がっていたが道を知っているのと歩むのは違うのだ。
さて、おとなしく待っていれば半年後にゲームアーカイブスに五百円で配信されたのに、偶然地元のショップに流れていた中古版を中々のお値段で買ってしまった。今では私の宝物。痛むのが怖くてもっぱらゲームアーカイブス版をプレイしている。
その内容はというと。
架空の国家カントウの新興都市24区を舞台に繰り広げられるドラマ。表シナリオの『トランスミッター』と、裏シナリオ『プラシーボ』を交互にプレイしていく内容。ゲームオーバーは無し。ついでに言うとゲーム性もあまりない。ゲームの名を借りた前衛芸術とでも呼べばいいのか。
トランスミッターでは主人公=プレイヤーが公安特殊部隊リパブリックとして不穏な月光の下、拳銃を持った容疑者を追い詰めるところから物語は始まる。
この世界は日本のようで、日本ではなく、独自の世界観とそれに基づいたルールが存在する。例えば凶悪犯罪は情報となってメディアの流れに乗って『伝染』するため、情報が流出する前に容疑者を射殺する『処分』と呼ばれる処理がリパブリック、または24区警察署凶悪犯罪課には許可されている。
ちなみにこの世界=カントウ24区には主に二つの政治勢力が存在し、『処分』の権限を持つ凶悪犯罪化に対抗してリパブリックという組織が設立されている。
閑話休題、容疑者を用途不明構造物カリフラワーにて追いつめた三人のリパブリック隊だが、実戦経験の少ない彼らは一名負傷、結局は凶悪犯罪化のベテラン『クサビテツゴロウ』にフォローされてしまう。
以上がプロローグである。これには対となるプラシーボはなく、シルバー事件としては次の『#1 デコイマン』が本番となる。
デコイマンではタイトルの『シルバー事件』を起こした容疑者『ウエハラカムイ』が精神病院を脱走し、再び殺人を行う事件である。基本的に『シルバー事件』はこの『ウエハラカムイ』を追う物語だ。
『シルバー事件』に関しては説明書にもある程度補足があるが、物語から20年前に政府の偉い長老たちをウエハラカムイが鋭利なチューブ状の刃物で暗殺した事件である。当時、出来たばかりの24区を巡って三つの勢力が争っていたため、カムイはいずれかの勢力が差し向けた暗殺者だとされたが結局カムイから聞き出すことは出来なかった。
ちなみにこのカムイを逮捕したのが前述のクサビテツゴロウである。
トランスミッターの#1 デコイマンと並行して、プラシーボ*1 YUMEではデコイマンと時間軸を同じくする話が語られる、主人公のフリーライター、モリシマトキオが通信社時代の上司、イノハナから高額の報酬でウエハラカムイの調査を依頼されることから話が始まる。仕事をやりつつ、カメの餌を買いにバビロンショッピングセンターに向かった彼だったが、そこでモリシマトキオは奇妙な体験をする。その後、モリシマには死んだ人間の声が聞こえるようになっていた。
トランスミッターとは送信機のことであり、終盤に登場する施設の名前だ。プラシーボとは偽薬効果のことであり、モリシマの吸うタバコの銘柄でもある。プレイヤーは二つの視点から物語を読み解きつつ、シルバー事件とウエハラカムイの謎を追っていくことになる。
ここからは私の独断と推理とネタバレ。
主人公はウエハラカムイだった。
また、モリシマトキオもカムイだった。
カムイは何でも命令道理に動く人格を持った暗殺者だった。
そこで24区はカムイをモデルにシェルターキッズ政策を持って子供に徹底的な教育を施し、カムイのような人間を作り上げて為政者の思い通りに働く市民による『完璧な都市』を目指した。
その際に男子をカムイ。
女子をアヤメと名付けた。
だからカムイは何人もいるし、アヤメも何人もいる。
という話をプレイヤーは聞く。
一方でクサビテツゴロウはエピローグでカムイは犯罪者ではなく、暗殺者でもなかったという。
ウエハラカムイの目は『銀の目』を持っていて、これを手に入れた人間は不老不死の力を得る。
ウエハラカムイの目を巡ってカントウの長老たちは素手で殺し合い、生き残った男が殺されたカムイから目を取出し、自分の目をくり抜いて銀の目をはめて不老不死を手に入れた。それがカントウ24区の代表ハチスカカオル。
シェルターキッズ政策は子供を使ってこの『銀の目』を養殖するプロジェクトだった。
銀の目、だから『シルバー事件』。
という話をプレイヤーはクサビテツゴロウから聞く。実際、三角党内部では銀の目に関する情報が手に入る。二つのプロジェクトはどちらが真実なのか、はたまた並行して行われたのか。デコイマンに出てくる『カムイ』は何なのか。物語はハチスカカオルが新しい。
『カムイ』によって銀の目を奪われるところで終わる。どうやらカムイは伝染病みたいなものでもあるらしい。分かったような、分からないような、結局カムイは何なんだ?
この後に続く『花と太陽と雨と』、『シルバー事件25区』をプレイした私が考えた結論としてはウエハラカムイとは『プレイヤー自身』ではないかと見ている。トランスミッターの主人公も、プラシーボの主人公も、花と太陽と雨ともシルバー事件25区も結局、主人公はカムイだった。
プレイヤーが捜査することによって凶行を起こす存在がカムイではないか。そう考えると主人公は悲劇だ。味方に操られるのでもなく、黒幕に操られるのでもなく、異世界の誰かに娯楽として気まぐれに操られるのだ。しかもその操作はプレイヤー次第では上手かったり下手だったりする。やられても復活するというシステムのメタファー、シロヤブがスミオに撃ち殺されても平然と生き返っていることに繋がっているのではないか。
そういったゲームのキャラクターから見たプレイヤーのことを『ウエハラカムイ』という概念で括っているのではないか?
ナツメ隊長も「カムイは隣人だ」と言っているし、モリシマもトランスミッター編で「お前がカムイ」と言っている。
ということはシルバー事件25区のマッチメイカーのツキシンカイもカムイなのか。ありえない話ではない。あの街では誰もがカムイになる可能性を持っている。なんら特別なことじゃない。
2013/12/04 ペーパードライバー